小錦八十吉さんのガストリック・バイパス手術体験本

『ありがとう千絵―小錦夫妻150キロダイエット愛の記録』は、元力士の小錦さんが、「ガストリック・バイパス手術」という、胃を小さくする手術によって、150kgのダイエットに成功した体験談。
「手術でダイエット」というと、労せずダイエットを想像する人もいるかもしれませんが、とんでもない!手術後の苦しみには、心身ともに努力を強いられたようです。
現役時代から身体の大きかった小錦さん、2007年には体重が300kgを超えていたそうです。こうなると、自分で靴を履くなどの日常動作に支障が出てくるだけでなく、病気になりやすくなって、1ヶ月に1度は入院してたのだとか。
もはや、「痩せてカッコよくなりたい」というレベルではなくて、「痩せないと命にかかわる」という状態。
そこで、小錦さんの会社の社員も含めて、確実に痩せる方法を検討して選んだのが、「ガストリック・バイパス手術」。胃を小さくすることで、すぐに満腹感を感じるようになり、カロリー摂取量を減らすことができるというダイエット法です。
「胃を小さくする」と、簡単に痩せられるように感じてしまうかもしれませんが、小さくなった胃に、身体の胃以外の部分がそう簡単に適応してくれるわけではない。術後に通風が出るというのは、事前に知らされて覚悟していたものの、その痛みは現役時代から既に通風持ちだったKONISHIKIさんでさえ耐えられないほどだったとか。
また、小さくなった胃のほうも、環境に適応して大きくなろうとするので、それによって元の体重に戻ったりしないよう、手術後の食事コントロールはずっと続けていかないといけません。「野菜などの低カロリーのものを、ゆっくりよく噛んで食べる」という、一般的な食事コントロールをするんです。
そういったことを理解するために、「ガストリック・バイパス手術」は、病院の門を叩いてから実際に手術を行うまでに、2年ほどかかるのだそうです。その間、カウンセリングで太った理由を考えたり、カロリー計算の勉強や、食事療法のレッスンを行う。また、手術に耐えられる身体でなければ、それも改善する必要がある。読んでいても、本当に大変そうです。
ご本人や奥様の努力の甲斐あって、手術できる身体を手に入れた小錦さん。3時間かかる予定のガストリック・バイパス手術は、小錦さんが内臓脂肪が少ないタイプだったために、幸い1時間45分で済んだそうです。
その後、通風や食事コントロールの苦しみを乗り越えて、手術の1年後には170kg台をキープできるようになったのですが、この頃になると皮膚のたるみが問題になってきます。
300kgの身体を覆っていた皮膚に対して、身体の脂肪が減ったら、余った皮膚が垂れ下がってきてしまうんですね。本の中に当時の写真もあるのですが、本当に「たるみ」というより「垂れ下がる」という感じなんです。
その結果、更に皮膚切除の手術が必要になり、ガストリック・バイパス手術の1年半後に、2回に分けて皮膚切除の手術を行い、合計14時間の手術で21.1kgの皮膚を切除したとのこと。ダイエットによって、更に他の手術が必要になってしまうという、300kgからのダイエットの道のりの長さを感じさせる話だと思います。
そんな長い道のりを経て、ガストリック・バイパス手術から1年9ヶ月経った執筆時の体重は154kg。その時点でも通風は出ているし、130kgを目標に食事療法はまだまだ続くそうですが、300kgを超えた体重が約半分になった体験談は、そこまででも本当に壮絶でした。
小錦さんが、この体験を通じて痛感したことの一つが、「何でも精神力で乗り越えようとせず、医学的に適切な対処法に頼ることも大事」ということ。通風の痛みに対して特にそう感じたそうですが、これってダイエットそのものにも言えるような気がします。
太っていることに対して、世間の評価って「自己管理が不足している」と判断しがちですよね。ダイエット失敗に対しても、努力や根性が足りない、みたいな評価をされることが多いです。なので、ダイエットする人も、精神力で頑張ろうとする。
でも、それが本当に正しいか。人間は弱いものだし、精神力だけで乗り越えようとすると、周囲にも迷惑をかけかねない。医学に甘えてもいけないのでしょうが、適切な処置には頼った方がいいですよね。小錦さんのこの本には、ダイエットと医学の関係を、あらためて考えさせられました。
| <書籍情報> タイトル:ありがとう千絵 著者:小錦八十吉 発行日:2009/12/25 |